浜松医科大学の教授が学長をパワハラで提訴
浜松医科大学の50歳代の男性教授が7月7日、中村学長と浜松医科大学を相手取って慰謝料など計550万円を求める訴訟を静岡地裁浜松支部に起こしました。男性教授は中村学長から頻繁にどなりつけられるなどの被害を受け、昨年4月に心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されたとしています。
3S大学とも言われる浜松医大ですから、6年間しっかりと3Sの研鑽を受け、打たれ強く逞しい医師に育っている先生は多いと思います。しかし、全員そのような学生生活を送って来たわけではありませんから、例外はあるのです。
「学長にどなられPTSD」
穏やかではありませんね。 男性教授は、「(継続的なパワハラで)無気力感や絶望感を感じる」(訴状)ようになり、PTSDと不眠症を発症し、今年1月に浜松労基署に労災を申請し、「上司とのトラブル」が認定され、支給が決まっています。男性教授らは、大学にパワハラの調査も求めていて、大学には調査委員会が設置されている。現在は、教育は実施しているが、「最近1年間、研究は手がついていない」と影響を訴えています。
浜松医科大学で何があったのか。訴状によれば昨年4月、男性教授に事前の相談のないままに、男性教授に割り当てられていた部下の研究者のポストを削減すること、さらには男性教授が担当する授業などを減らすことを決定して、一方的に通知されたとのことです。ポストや教育範囲を減らす決定を伝え、恫喝する「パワハラ」があったということです。中村氏の要求は正規の委員会等で議論された形跡もなく、恫喝などによるポストや教育権限の移譲について、「正規の議論の形跡もなく独裁」であるとしています。
独裁とは、これまた穏やかではありません。
しかし、3S大学と言われる浜松医科大学の学長権限が肥大化していることは事実のようです。浜松医科大学の学長選挙では、(通常の国立大学医学部で行われているような)教授選挙が廃止されているのです。その代わりとして「意向調査」が実施されています。意向調査を経て、経営協議会と教育研究評議会から選ばれた学長選考委員会が、最終決定する仕組みです。経営協議会と教育研究評会のメンバーは学長が選定できます。ですから、浜松医科大学の学長権限は非常に大きいのです。これを独裁と呼ぶべきかどうか。これは歴史の判断に委ねたいと思います。大学病院の医局を辞めることが大切なのです。
しかし、なぜ学長だけでなく浜松医科大学そのものも訴えられてしまったのでしょうか?
当初は中村氏個人に対する訴訟となる予定だったようですが、非公務員の国立大学法人職員は国家賠償法上の「公務員」として扱われる判例があります。公務員扱いの場合、警察官の職務執行などと同様に免責となり、請求そのものが棄却される可能性があるため、大学も対象としたようです。訴状では、中村氏への損害賠償請求については、民法の適用を求めています。男性教授は中村氏個人に対する責任を追及したい考えのようです。
浜松医科大学は読売新聞の取材に対し、「訴状が送達されていないのでコメントは控えたい」としています。
かつて、愛媛大で実験失敗の院生に准教授が罰金34万を払わせるというパワハラ事件がありました。この事件をきっかけに、医学部内のパワハラ事件にスポットライトが当てられるようになりました。今回の浜松医科大学の事例は本格的な訴訟に発展してしまいそうです。「白い巨塔」が人気を博したことを見てもわかるように、医師の世界の権力闘争は一般聴衆の格好のネタにされがちです。この事件がセンセーショナルな報道をされ、面白おかしく報じられることで「医学部教授=悪」、「医局制度=旧態依然とした悪弊・陋習」といったレッテル貼りに陥ってしまわないことを切に願います。医学研究や医師の要請において医局制度は依然大きな役割を果たしていて、世間のバッシングにもかかわらず輝かしい成果を出している医局も数多くあります。そういう医局が復権を遂げているのは当然のことだと思います。医局制度=悪という一般化は危険です。個々の大学の問題は個々の大学で処理すべき問題であると考えます。
浜松医大の問題は、氷山の一角と言えます。多かれ少なかれ、このようなパワハラに苦しんでいる大学院生、医局員の先生は少なくありません。こんな状態になっている医局に残っていたら百害あって一利なしでしょう。医局に愛想が尽きて、医局を辞める先生が増えています。医局をスムーズに辞めて転職されたい先生からの御相談をお待ちしています。お気軽にお問い合わせ下さい。