世間は医師不足、医師不足と騒ぎます。
医学部の定員も増えてしまい、医学部の新設も決まりそうな勢いです。
同業者が増えて良いことがあるでしょうか?あるはずがありません。医師の供給過剰は誰も喜びません。
患者が喜ぶという意見もあるでしょうが、それは幻想に過ぎません。なぜか。
医学部の定員増が着々と進められていますが、そのなかで一定の定員数を占めているのが「地域枠」です。地方の医学部の地元で何人と決まった枠を決め、その学生達は卒後地元に残るわけです。自治医大の枠が地元の大学に増設されているようなものです。
地域枠があることが地元出身の若者の救いになることは否定しませんが、医学部入学に耐えうる学力を持った高校生の数は有限です。地域枠を設定しても、あまりにも酷くてとても入学を許可できない学生が多いのが現状なのです。無理して入れるべきではありません。医学部に入っても、卒業できない可能性が高い。卒業は何とかお情けでさせられても、医師国家試験に情状酌量はありません。そこで阻まれてしまいます。
ですから、地域枠に過剰な期待を持つべきではありません。そのような人材は既に自治医大に行ってしまい、使い果たされていると考えるべきでしょう。
このような問題のある医学部定員増ですが、増えてしまえば弊害は必ずあります。人為的な医師インフレですから、医師の価値が下がります。我々の持つ期待値が下がりますし、医師人生を有価証券と考えた時の利回りが下がります。一人の医師を国債と考えればわかりやすいでしょう。医師インフレで医師の債券価格は暴落します。医師の金利上昇も起こります。
医師の金利上昇とは?
医師が事業をしようとしたときに銀行がお金を貸さなくなるということです。アベノミクスの世の中、日銀が猛烈な勢いで国債を買い取って円を増発しています。市中銀行にはお金が積み上がっています。ジャブジャブにあふれていますが、貸すところがないので死蔵されています。貸すところがないのはリターンを産む成長産業がないからです。ほとんどゼロ金利といえる住宅ローンを重要な金利稼ぎの場として大手銀行が顧客獲得に懸命になっている姿は滑稽ですが、そんなところが魅力的に思えるほど成長産業がないのです。
医師という仕事は皆保険制度に支えられています。バックには国が付いている安全な商売です。銀行はこれでもかこれでもかというくらい医師には貸してくれます。皮肉ですが、医療機関はまず潰れない、消去法的に有望な産業だからです。
しかし、それも現在の勢いで医師が乱造され続ければ終わります。潰れれる開業医が増えるでしょうし、店仕舞いする病院も増えるでしょう。金融機関は医師にお金を貸すのを躊躇するようになります。借りるには高い金利を払わねばならなくなります。「医師の金利上昇」とはそういうことです。
勤務医も影響を免れません。クリニック(特にこれまで増えてきた訪問診療クリニック)、中小病院が潰れればアルバイト先がなくなります。アルバイトが減れば医師の年収は大幅ダウンでしょう。特別なセールスポイントがあれば別ですが、何の売りもないフリーランス医師には厳しい将来が待っているでしょう。
これまでは敬遠されてきた国公立病院が安全な逃避先として注目されるようになるでしょう。アルバイトが自由にできず年収が低くなってしまうために見向きもされない存在だったわけですが、アルバイト自体がなくなってしまえば、潰れない・クビにならないことが魅力的に思えてきます。悲しいですが、そういう方向に進んでしまいそうです。