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医局を辞めることは決して難しいことではない

医局を辞めることは決して難しいことではない

先生、医局を辞めたいとお考えになったのは何年目くらいのことでしょうか?

退局・脱局、言い方は様々ですが、先生方が医局を辞めることを考えるようになる時期として多いのは以下のような時期です。

  •     後期研修を終了したとき

  •     学位や資格試験を取得したとき

  •     当直や時間外呼び出しがこたえるようになってきた40歳前後

  •     医局の政権交代にともない、主流派ではなくなってしまったとき

理由や時期はさまざまですが、より良い人生を求めて医局を辞めて新天地を求めるわけです。

医師人生の節目に退局が多い

「医局を辞めるのは難しい」

医師の世界ではそれが常識ですが、一度やってみると、案外簡単であることがわかります。

そうです。医局を辞めることは決して難しくはないのです。

インターネットが無かった時代は、医師の転職情報を得る方法は限られていました。

人づての情報が基本でした。だからこそ医局の支配力が絶大だったわけですが。

「医局に逆らったら食っていけなくなる。」

という言葉は真実であり、医局が信仰の対象になっていたわけです。

当時、医局を介さない情報ソースとしては醫事新報かジャミックジャーナルくらいしかありませんでした。

しかし、2004年に始まった臨床研修制度によって医局の支配力にも陰りがみられるようになります。医局が唯一神だった時代は過ぎ去り、インターネットの普及によって格段に利用しやすくなった医師紹介会社の隆盛により、3分で登録完了、放っておいても求人情報がメールで毎日大量に送られてくる時代になりました。医師の労働市場の流動化が格段に進んだのです。

臨床研修制度が始まってちょうど10年になろうとしていますが、医局は死んだか?

残念ながら、というべきかはわかりませんが、まだ死んでいません。寧ろまだまだ大きな力を残していると言うべきでしょう。未だに無視できない存在として光を放っています。所属医局を完全無視して自由に転職できる時代になるにはもう少し時間がかかりそうです。

従って、医局と喧嘩して転職するのは得策ではありません。医局を辞める際に喧嘩別れしてしまえば、医局側は永年に渡って執拗な嫌がらせを続けるかも知れません。先生のその後のキャリアに悪影響を及ぼす可能性があるのです。

喧嘩別れがいけないのはなぜか。それは敵を作ることに繋がるからです。出身医局の教授と揉めれば、医局から先生をパージする指令が飛ぶでしょう。医局長以下、上層部から関連病院にまでお触れが発令されます。教授に刃向かったために、

「アイツが来ても絶対に雇ってはいけない。」

というお触れがきたために、どこにも雇ってもらえず他県に落ち延びた先輩を知っています。

同じ地域の中では患者を遣り取りする機会もあれば、研究会等で顔を合わせる機会が少なからずあります。その際に毎回気まずい雰囲気では息がつまります。喧嘩別れして地元で開業しても、

「アイツのところには絶対に紹介するな!」

と医局から干され、クリニックを軌道に乗せるのに並々ならぬ苦労をした先輩がいます。

また、医局からパージされる際には不可避的に流言飛語を飛ばされます。

「頭のイカレタ奴」

「セクハラ野郎」

「変人」

これはもう多勢に無勢で、どんな嘘でも信じられてしまいます。「戦国策」に「三人言いて虎を成す」という話があります。「町に虎が出た!」という嘘も、三人がつけば信じてしまう、 という話から生まれた成語ですが、退局でもめた時にはこのような根も葉もない噂が尾鰭がついて出回ります。向こうとしては、先生の信用が落ちれば何でも良いのです。

「アイツ、そんな奴だったのか・・・だから医局をクビになったんだな。」

と思わせ、信用を落とす作戦です。ただでさえ、医局を辞めて孤立無援なのにこれはこたえます。

ヨーゼフ・ゲッベルスが言った言葉に、こんな言葉があります。

 【原文】Wenn man eine große Lüge erzählt und sie oft genug wiederholt, dann werden die Leute sie am Ende glauben. Man kann die Lüge so lange behaupten, wie es dem Staat gelingt, die Menschen von den politischen, wirtschaftlichen und militärischen Konsequenzen der Lüge abzuschirmen. Deshalb ist es von lebenswichtiger Bedeutung für den Staat, seine gesamte Macht für die Unterdrückung abweichender Meinungen einzusetzen. Die Wahrheit ist der Todfeind der Lüge, und daher ist die Wahrheit der größte Feind des Staates.

【和訳】大きな嘘であってもそれを頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう。嘘によって生じる政治的、経済的、軍事的な結果から人々を保護する国家を維持している限り、あなたは嘘を使えるのだ。よって、国家のために全ての力を反対意見の抑圧に用いることは極めて重要である。真実は嘘の不倶戴天の敵であり、したがって、真実は国家の最大の敵なのだ。
ナチスを賛美するものでは決して無いのですが、医局という「帝国」はこういったプロパガンダを行うものなのです。退局でもめた時にはこのような根も葉もない噂が尾鰭がついて出回ります。向こうとしては、先生の信用が落ちれば何でも良いのです。
「アイツ、そんな奴だったのか・・・だから医局をクビになったんだな。」
と思わせ、信用を落とす作戦です。ただでさえ、医局を辞めて孤立無援なのにこれはこたえます。

ただし、仮にこんな目に遭わなかったとしても、「医局と喧嘩をした」というのは先生の評価には大きなマイナスになります。どんなにひどい仕打ちを受けていたとしても、日本の社会は喧嘩両成敗です。10-0の無傷はあり得ないのです。医局と喧嘩するような奴は忍耐力が足りなくてコミュニケーション力が無いと思われてしまうことは避けられません。だから、絶対に喧嘩別れはしてはならないのです。

医局に所属していると、地域の基幹病院のようなところに派遣されることが多いでしょう。キツくて給料が悪いことが多く、長い間いると嫌になってしまうかも知れませんが、その反面勉強にはなります。医局を辞めてマターリで高給な病院に行ってしまうとQOLは高まりますが、過去の遺産を食いつぶして生きていかなばならないことが少なくありません。そこは割り切って考えないといけません。だからこそ、一人前になるまでは安易に医局を辞めるべきではないのですが。

特に、若手医局員の入局が少ない追いこまれた医局は必死です。勝ち組医局・負け組医局の二極化が鮮明な世の中で、どんどん医局員に辞められてしまえば組織を維持できなくなります。こんな有り様では先代に顔向けできないというプレッシャーもあるのでしょう。教授からの締め付けがかえって悪化している医局もあります。恫喝、脅迫、懇願。ありとあらゆる手を使って引き留めようとします。こういう手を使ってくる医局はますます縁を切ったほうがよいでしょう。ブラック医局以外の何物でもないのですから。

ですから、格段に脱局・転職しやすくなったのは事実ですが、医局を蔑ろにすることで思わぬ報復を受けないよう注意して医局を辞めるように心掛けて下さい。

要は教授のメンツを保ってあげることが大事なのです。転職先を選ぶこと、入職の手続きなどは医師紹介会社の発達によって非常にラクになりましたが、教授のメンツを保つことまではいくらなんでも医師紹介会社に丸投げ出来ません。先生ご自身が教授と面談して話を付けてこなければいけないのです。面倒くさいとお思いかも知れませんが、やってみると意外に簡単です。

「お前、自分だけ良ければ良いのか。他の人間は頑張っているんだぞ!」

「医局が潰れたらお前のせいだ!」

なんて恫喝はよくありますね。

他人は他人、自分は自分。それができない先生が医局と心中するわけですが、死にたければどうぞ。先生が辞めたって医局は何事もなかったように回っていきますよ。自分がいなけりゃ、なんて自惚れです。こんな恫喝に惑わされてはいけません。

どんな暴言、罵声を浴びても、犬が吠えていると思うことです。先生の退局理由がまったく落ち度のないものであっても、教授は面白くありません。悔しいでしょうが、そこで口答えをしてはなりません。犬が吠えているのが、猫が鳴いているのだ。そう思って受け流しましょう。面従腹背で、

「申し訳ございません。」

とだけ連呼して、体操だと思って頭を下げておけばよいのです。

どれだけ罵倒しても無効とみれば、今度は懇願・懐柔に出てくるでしょう。

「あと半年待ってくれたら、もっと良い病院に出してやる」

「あと一年頑張ったら、自由にして良い」

「あと一年頑張ったら留学させてやろう」

なんて言ってくることが多いですが、半年我慢したらあと一年、一年我慢したらもう一年とずるずる泥沼のように慰留されます。

大事なのは簡単に翻意しないことです。

簡単に翻意すれば舐められますし、仮にそれで残留したとしても

「一度は裏切ろうとした奴」

として信用されません。残っても先生の評価はガタ落ちのままで、茨の道です。一度辞めると言ったからには辞めるしか無いのです。

恫喝・懇願に屈することなく、不退転覚悟で医局を辞める決意を伝えて下さい。

スムーズに医局を辞める極意ですが、以下のようにすれば簡単です。

1.家族内の意思統一は最初に行う。

自分一人で勝手に話を進めてはいけません。奥さんは先生の家庭の共同経営者です。共同経営者を敵に回してしまっては医局という敵に勝てるはずがないのです。まずは奥さんに医局を辞めることを理解していただき、協力体制を取っていただきたいのです。医局を辞めた後のライフプランがあまりにも浮世離れしていれば奥さんの許可が下りないでしょう。女性の目というのはある程度(否、かなり)信頼できます。自分のQOLを追求するだけでなく奥さん以下お子様のQOLも改善できるような転職プランをよく話し合ってください。それができて初めてスタートラインに立てます。

2.医局を辞める理由は個人的理由に限る

退局に至った背景には様々な理由があることと思います。多くの先生は正直に言えばネガティブな理由でしょう。医局の人間関係に疲れた、関連病院の過酷な労働環境にほとほと嫌気が差した、などです。正直な人は魅力的ですが、退局に限って言えばNGです。医局の世界では、

「それを言っちゃあおしめえよ!」

という暗黙のタブーが多数存在するものです。

たとえ本当のことであっても、言ってはいけないことを言ってしまったがために

「ひどいことを言いやがった奴」

としてパージされることも少なくありません。

退局理由は先生個人または先生のご家族の個人的理由にしておくのが無難でしょう。

    奥さんが病気で、子供の面倒をみなければならない

    親の介護のために実家に帰らなければならない

    子供の通学の都合

    奥さんの勤務の都合

先生個人の理由を全面に出してしまうと、軋轢を生むことになりかねませんね。

「他の施設でもっと修行したい」

といえば、

「うちの医局の病院はダメだっていうのか?」

となってしまいますし、

「開業したいので・・・」

といえば、

「甘いな。まだ青いケツをして。食えなくて泣くぞ。」

と言われてしまいます。

ところが、教授といえども奥さんやご両親、お子さんの人格までは否定できないので、全否定というわけにはいかないから反対されにくいのです。

3.退局の意思表示前の医局の同僚の動向調査が重要

先生が医局を辞めようというタイミングで、同門の他の先生が相次いで辞意を表明されたらどうなるでしょうか。大方の教授は面白くなく、締め付けを厳しくするでしょう。最近でも「一斉退職」が珍しくありませんが、ギリギリで頑張っている組織ほど余裕がなく、蟻のひと穴の如く一人辞めると一斉退職という流れに発展してしまうことは少なくないのです。自信の無い教授ほど、強行的な退局の連鎖を恐れて恐怖政治に走ります。同じタイミングで辞意表明をしそうな先生がいたら、それも複数名いたら、彼らが表明する前に表明するように時期を早めましょう。逆に、複数名に先手を越されてしまった場合には退局のハードルが上がります。1-2年延期することも視野に入れましょう。先んずれば人を制すです。次の項目にも言えますが、退局には時間的余裕を持って臨みましょう。

4.一定程度の妥協は必要

退局も交渉事ですから、自分の主張ばかりいっては纏まるものも纏まらないものです。ある程度の歩み寄りは必要です。ですから、医局を辞めるには時間的・精神的余裕を持って考えてください。

「1年間僻地の病院に行ってくれたら辞めさせてやる」

「1年間大学で雑用をやったら辞めさせてやる」

などが一般的でしょうか。個別の医局のシキタリによってどの程度が相場かはマチマチだと思いますが、同門の他の先生と比較して明らかに劣った交換条件でなければそれで結んでしまうのも一つの方法です。1年程度回り道にはなりますが、揉めずに辞めることができるのなら安いものです。法律で論じてしまえば、1ヶ月前に辞職を伝えればそれでよいということになりますが、早くても半年、できれば1年はかかると考えて計画を練ったほうが良いでしょう。

5.法律云々は言わない

時間がかかってイライラすることもあるでしょうが、早く辞めたい気持ちもわかりますが、再優先すべき項目は「医局と喧嘩しないこと」なのです。すぐに辞めさせてもらえなかったからといって、

「法律上は1ヶ月前に・・・」

などとは決して言ってはいけません。

医師の世界では「法的措置に訴える人間」は好訴妄想として危険人物視されてしまいます。結局損をするのは先生です。負けるが勝ちなのです。

6.ひたすら低姿勢で

「そんなことやってられるか!」

と怒られてしまうかもしれませんが、負けるが勝ち。ひたすら低姿勢に徹しておいてください。頭を下げるのは無料です。いく

らでも下げてあげましょう。首の運動くらいに思っておけば良いのです。そこでくだらない意地を張っても、短気は損気です。数十年スパンで考えましょう。低姿勢を貫いた先生こそが最後に笑えるのですからそれで良いのです。
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